年寄りの冷や水

私の母は81歳になりますが、週に一度、テニスに通っています。

昔からテニスが何より好きで(やらない時期も長かったですが)、

今も「会心のフォアハンドが打てること」を目標に、

「それができたらやめる」と言いながら続けています。

 

通っているのは、テニススクールのシルバークラスですが、

先日、それとは別に単発の30分個人レッスンを申し込んできました。

家ではフェデラーや錦織の試合を繰り返し見ているし、

本当に、どこまで熱心なんだろうと驚かされますが、

私は心の底でとてもうれしく思っています。

 

昨年は座骨神経症で動けなかった時期もあるので、

こうして元気に動けるだけで感謝の気持ちでいっぱいです。

「その年で今さらなんのために」と、

冷ややかに思う人もいるかもしれませんが、

私には励みであり、秘かな誇りでもあるのです。

 

個人レッスンを終えた母と話をしました。

担当は初めての男性コーチで、極端に冷たかったと言うのです。

母が最初に「80代です」と自己紹介をしたこともあり、

年寄りをどう扱っていいのか、どこまで走らせていいのか、

恐る恐る、迷い迷い、困惑を隠せない様子で、

技術的なことも、最後まで教えてくれなかった、と。

時間が来ると逃げるように帰ってしまったそうです。

 

その先生の気持ちもわかるような気がします。

中高生や若い主婦層に教えることには慣れていても、

母の歳でテニスをする人、しかも個人レッスンまでする人は、

今まではいなかったので戸惑ったのでしょう。

母には明確な目標や具体的な悩みや質問があったのに、

「こんなおばあちゃんに教えたってしょうがない」

「怪我でもされたら、たまらん」と思ったのかもしれません。

 

私が信頼する整体の先生は、

「なんでも好きなことをやりなさい」と言います。

年寄りだからこういう運動がいい、これはしちゃいけない、

というようなことは決して言いたくないそうです。

好きなことをするために体を整える、

体を整えて好きなことをするのが人生だ、と。

 

私も激しく同意します。

極端な話、年寄りでなくても、スポーツに怪我はつきもので、

家から一歩出れば交通事故など何かしらのリスクは発生します。

だからずっと家にいるのか、好きなことをしないのか、という話。

私たちは、健康長寿のために生きるのではなく、

好きなことをするために生きるのであり、それが幸せだと思う。

 

そして、社会は、

そういう個々の幸せを優しく応援する空気であってほしい。

それには、一人一人の意識が、変わること。

テニスの個人レッスンの先生ではなく、整体の先生のように、

一人一人の意識が変わることで、社会も変わると思います。

すべての人が自分の責任で自分の人生を生きられる、

お互いにそれを尊重しあう社会にしていきましょう。